僕はメインCAST

第一話 上を向いて

▼cast

鈴木 葵(すずき あおい)18歳高3男


南波 春人(なんば はると)18歳高3男



声…(3名ほどいれば理想)

※台詞数が少ないため、春人1人の代役で行う事も可能です



▼本編


葵「有名な冒頭の1つに、"人は誰しも自分という物語の主人公だ"という物がある…。でも…僕は嘘だと思う。

だって…僕は、主人公どころか、存在しているかどうかすら…分からないから。

みんなステージの上で輝いてる。自分という役を演じて…でも、僕という人間は…ステージ裏で…ビクビク震えながらそれを見てるんだ…。

そんな僕が…主人公になんて…なれるわけがない。」


ドンドンドン!(扉を叩く音)


春人「鈴木ー!鈴木ー!」


葵「…」


ドンドンドン!(扉を叩く音)


春人「鈴木ー!いるのは分かってるんだぞー!出てこいよー!」


葵「…ん…。」


ドンドンドン!(扉を叩く音)


春人「おーい!!」


ガチャッ(扉を開ける音)


葵「何だよ…!」


春人「おっ♪出てきた出てきた。」


葵「もう…僕は退部するって言っただろ…。何度も何度も言ってるはずだよ…。」


春人「いや!退部なんて受理しません!」


葵「なんでさ…」


春人「だって、お前…僕も役者をやってみたいって、あんなに希望に満ちた目で言ってたじゃないか。

あの目は嘘なんかついて無かった。お前にやって欲しい役があるんだ」


葵「しつこいな…僕はもう二度と演じない。一昨年の文化祭で分かったでしょ…?僕はたった1つの台詞すら演じ切れなかったんだ…!」


春人「それは一年の頃の話だろ。もう二年も経ってる。鈴木だって、成長してる。違うか??」


葵「なんでそんな事言えるのさ!!」


春人「っ……!」


葵「君も含めて、部員…いや、全校生徒皆!!小さな台詞すらこなせない僕を嗤ったじゃないか!演劇部のくせに、こんな事すら出来ないのかってさ!それを今更、やって欲しい役があるって?無理だよ!!」


春人「それは……。」


葵「もう、こないでくれよ…!」


バンッ(ドアの閉まる音)


春人「あ、ちょっ……鈴木!!」


葵「もう、僕に関わるのは止してくれ…。そっとしておいてくれよ…。」


春人「…怖いのか?」


葵「…」


春人「怖いのかよ?」


葵「……怖いよ。」


春人「はぁ…確かに、失敗した後のステージは怖いよな。

俺だって、何回も失敗したし。」


葵「…分かった気にならないでよ。」


春人「分かるさ。でも、それは役者として、踏ん張らなきゃいけないとこだ。」


葵「もう…いい加減にしてよ!僕はもう転校するって決めたんだ。もうこれ以上…僕に関わらないでよ!!」


春人「…なんだって?」


葵「え…?」


春人「転校!?」


葵「そうだよ…」


春人「マジかよ…なんで」


葵「あの事件以来…僕は学校に行けなくなった…単位が足りなくて…。でもいいんだ。通信制の高校に転校するつもりだから。」


春人「転校なんてすんなよ…また一緒のステージで演劇しよーぜ?」


葵「…」


春人「鈴木!なぁ!!聞いてんのかよ」


葵「勝手なこと言わないでよ…!僕はもうステージには立てないんだ…君みたいな、活躍出来る主役の人には分からないんだよ。」


春人「鈴木…。」


(外が静まりかえる)


葵「…これで良いんだ。これで…」

"僕はもう演じれない。ステージなんて…そんな眩(まぶ)しい場所は僕には最初から似合わなかったんだ…。

皆が僕を嗤ったのは当然のこと。それだけ僕がステージに立つ価値がなかった。それだけだ。"


葵「笑うなら笑えよ…僕は…もう、精一杯やったんだ…。

誰にでも…頑張っても出来ない事がある…。

もう…僕を放っておいてよ…」


(回想:葵の夢の中)


葵「…………」


声「クスクス…」


声「え、何。」


声「劇、とまった?」


声「終わったのかな」


葵「……ちがう」


声「ちがう?」


声「何が違うの?」


葵「それは…」


声「なんでお前みたいなのが演劇部にいるわけ?」


声「やる気が無いんじゃない?」


葵「やる気は…!あるよ…。」


声「辞めたらいいのに。」


葵「……え?」


声「お前みたいな奴、辞めたらいいのに。」



(夜明け)


葵「…ん。そう…。僕みたいな奴は早く辞めたらいい。決してやる気が無い訳じゃない。でも、僕には演じきれなかった。その事実はなにも変わらない。

…郵便…見てこなきゃ…。」


ガチャッ(扉を開ける音)


葵「え…。」


春人「ん…おー…鈴木~。おはよ。」


葵「おはよじゃないよ…!何してんの」


春人「へへー。お前の事、待ってた!」


葵「…ばっかじゃないの。」


春人「そんな事より。」


葵「ん…?」


春人「これ。台本。」


葵「台本って…。僕は…」


春人「分かった。出たくないんだよな。…無理に誘っちゃってごめんな?」


葵「べつに…いいけど」


春人「でも、劇…見にこいよ!」


葵「…なんで、そんなにまでして僕がいいのさ…」


春人「なんでって…んー。お前のその可愛い感じが欲しい!」


葵「可愛っ…は!?」


春人「ほらほら~そうゆうとこ。」


葵「うっ…。いや…僕なんか…そんな…。」


春人「お前が失敗したのさ」


葵「…?」


春人「ほら、一年の時。お前がステージで台詞言えなかった時…」


葵「ああ、うん」


春人「誰も笑わなかっただろ?」


葵「…うん。」


春人「一生懸命なのって、結構一緒に演じてる役者にも、観客にも伝わるもんなんだよ。」


葵「ん…。」


春人「それに、初めて演じる役。誰だって緊張くらいするって。

だから…気にすること無いっていうか。」


葵「だからなんだよ…?」


春人「俺は…ただお前に、ステージは怖いとこだって思われたまま行かせたく無いんだよ。」


葵「そうか…」


春人「俺、普段チャラチャラしてるかもだけどさ。演劇に対してだけは真剣なんだ」


葵「うん…分かってる」


春人「俺に騙されたと思って、もう一度ステージと向き合ってみねーか?」


葵「んー…」


春人「な?」


葵「少しだけ…」


春人「ん?」


葵「少しだけ…見てみるくらいなら…してもいいかも。」


春人「お、まじで?」


葵「うん…でも、やっぱり少し…怖い。」


春人「ハハッ」


葵「何で笑うのさ?」


春人「いや…悪い悪い。お前が…少しでも前向きになってくれたのが嬉しくてさ。」


葵「そんな…大げさだな」


春人「なぁ鈴木。」


葵「なにさ?」


春人「お前、演劇好きなんだよな。本気で。」


葵「…苦手だよ。僕なんか存在価値無いし」


春人「フッ。まぁいいや。」


葵「何がだよ?」


春人「べっつに~。」


葵「なんだよ?気になるだろ?教えろよ南波ー!」


春人「なんでもねぇってー(笑)

あ、そうそう明日演劇部練習してるから」


葵「え…?」


春人「一緒に行こうぜ?ステージにさ。」